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その夏、俺は彗(けい)と出会った。



「ほんっと何もねぇ、この町……」



母方のばあちゃんが一人暮らしをしているのは、俺が住む街からいくつも山を越えた、辺鄙な場所にあった。
高校二年の夏休み、友達と遊びたい気持ちは山々だけれど、じいちゃんが死んだばかりでばあちゃんが寂しがっているからと、母さんに半強制的に連れていかれた。
ばあちゃんはたった一人の孫である俺をすごく可愛がってくれるから、その笑った顔を見ていると来て良かったなぁなんて思う。
今のうちにばあちゃん孝行しておきたい。

なんて思いつつも、昼間から畑仕事をしているばあちゃんと、それを手伝う母さんを横目に家を飛び出した。
暇なことには変わりがないのだ。
蝉の声を聞き続けるのにも飽きた。
沿道には向日葵が力いっぱい咲いていた。

田舎の町は山に囲まれて、隣の家まで少し距離がある。
点在する家々を見ながら、唯一舗装されている一本道をぐんぐん登っていく。
坂の上には何かあるかもしれない。

せめてコンビニか、商店か……自動販売機でもいい。
そんな俺の淡い期待を裏切り、一本道はだんだん山道に入っていった。
この先まで行くと山を越えてしまうんじゃないかと思い始めたとき、山の奥に続く石段を見付けた。
木々に囲まれたその階段には、野良猫が一匹じっと座っている。
薄暗くて、上には何があるのか見えなかった。

どうせ家に戻ろうと思っていたし、登ってみようか。
探検心が擽られ、俺は石段に足を踏み出した。



石段を登った先には、古い鳥居が佇んでいた。
薄暗い階段とは変わり、登った先は開けていて、夏の太陽の光が燦々としていた。
古い神社が、静かにそこにあった。

神社なんてくるの、いつぶりだろう。
古いとは言え放置されている様子ではなく、人の手はかかっているんだろうと思えた。
どんと構える本殿を、なんとなくぐるりと回ってみた。



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