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汽車は、止まることを知らなかった。
たたんたたん、と一定のリズムで車体を揺らしながら、ただ大海原を走り続けた。
不安はなかった。
ただ永遠に続けばいいと思った。
「ねぇ、いち」
永久のまだ幼さの残る声が、一の耳をくすぐった。
「なぁに」
至近距離で囁かれたその声に、一も声を潜めて答える。
タオルケットの中は、二人の楽園だった。
「もう、いいかな」
永久はタオルケットを少し引っ張りながら言った。
「まだ。見つかっちゃうよ」
じじじ、と蛾がカンテラを奏でた。
一は深く深く、タオルケットを被りなおして永久を隠した。
同じかんばせが、互いの目に映っていた。
見つからなければ良いのだと、思っていた。
見つかればすべてが終わるとわかっていた。
旅の終わりは、いつだって見えなかった。
だから二人は、隠れて逃げた。
永久を守るためだった。
一を守るためだった。
同じかんばせの、同じ時に生まれた、同じ、気持ちがあった。
きゅっとタオルケットを握りしめると、永久はくすくすと笑った。
「いち、ずっと、逃げよう」
それに笑って、一も答えた。
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