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静かに汽車は水面を走りだした。
プラットホームから徐々に加速をあげる汽車は、大海原に向かって動き出す。
水面にゆらゆらと浮かぶ線路を、大きな車輪がしっかりと捉え、夜空とそれを映す暗い水面の世界へと向かって、水飛沫をあげた。

進む先は、闇だった。
ぽっかりと口を開けたその先に、光はほんの少しも、残っていなかった。

車内は煌々と明かりが灯り、汽車ががたごとと揺れるたびに、中央にぶら下がるカンテラが左右に振られた。
黒い蛾がじじじ、とカンテラに吸い寄り、明かりを吸うように黒々しさを増す。



「寒くない?」



一(いち)は、隣のシートに深々と座る永久(とわ)に声をかけた。
永久は、一と一緒に頭からすっぽり被ったタオルケットを胸元で握りしめ、虚空を見つめていた。

乗客はたった二人の少年だけだった。
窓に沿うように伸びるシートを余して、二人は寄り添って座った。



「うん」



永久はぽつりと答え、さらに強くタオルケットを握りしめた。
車内は寒くはないけれど、暑くもない。
気温は感じなかった。
ただカンテラは、ゆらゆらと揺れた。

一が永久の顔を覗き込むと、永久は控えめに微笑みを作った。



「一緒に、逃げよ」



永久はそう言って、一の唇に冷たいそれを重ねた。
キスと言うには幼すぎる動作だった。

一が顔をあげると、夜が窓を鏡に変え、自分の顔を映していた。
永久とひどく似たかんばせと、目が合った。
同じかんばせが、同じタオルケットにくるまっていた。

一は、目を反らした。



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