5
 

平常心を装うので精一杯だった。



「裕二と、帰ったんじゃなかったのか」
「……忘れ物して」



あった、と引き出しから茶封筒を取り出した。
が、濡れるのを恐れてか、ぱっと手を離した。

途端に、一つくしゃみをした。



「…っくしゅ、」
「風邪ひくぞ、……ほら」



備え付けのタオルと、俺の上着を投げた。



「これ、」
「今の脱いで、これ着とけ。身体冷えるぞ」



小さく、有難うございます、と声が聞こえた。
くるりと俺に背を向けて、おずおずと着替えはじめた。

意識がそっちに行かないように、俺は書類に目を落として、



「っ!」



ちらりと、日向の首元が見えた。
薄くなってはいるが、赤い跡が、今も残っていて。



俺のじゃない、あの時の。
かっときた。



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