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平常心を装うので精一杯だった。
「裕二と、帰ったんじゃなかったのか」
「……忘れ物して」
あった、と引き出しから茶封筒を取り出した。
が、濡れるのを恐れてか、ぱっと手を離した。
途端に、一つくしゃみをした。
「…っくしゅ、」
「風邪ひくぞ、……ほら」
備え付けのタオルと、俺の上着を投げた。
「これ、」
「今の脱いで、これ着とけ。身体冷えるぞ」
小さく、有難うございます、と声が聞こえた。
くるりと俺に背を向けて、おずおずと着替えはじめた。
意識がそっちに行かないように、俺は書類に目を落として、
「っ!」
ちらりと、日向の首元が見えた。
薄くなってはいるが、赤い跡が、今も残っていて。
俺のじゃない、あの時の。
かっときた。
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