5
「ゆ、う」
「っ………」
「……ゆう、?」
待ち望んだ、名を呼ぶ声。
けれど弱い俺は、それを受け入れられなくて。
一度味わった拒絶される悲しみは、もう二度とごめんだから。
そう呼んでも、またお前は、忘れてしまうんだろう?
「満月先生、呼んでくる」
「待っ……う、っ!」
「ひな、」
身体を離すと縋るように腕が伸びて、しかし頭の痛さに日向の動きが止まった。
「大丈夫か、」
「っ……嘘、だった……っ?」
「え?」
「傍に、いてくれるって、言った……!い、いまも、あのときも……」
ぴたりと動きを止めたのは、俺の方だった。
いつもの断片的な記憶の回復とは違う。
もしかして、日向は、
「僕、覚えてるよ、っ」
苦しそうに顔を歪めて、日向が必死に言葉を紡ぐ。
「僕と……ゆう、は……」
「……昔の話だ」
俺は、遮る。
続きは聞きたくなかった。
過去の思い出として精算されるのは辛かった。
俺と日向が思い合っていたと気付いたとして、しかしそれは記憶がなくなる前の日向のこと。
記憶が戻っても、感情まで戻るとは思えない。
好きだった、と言い切られるのが、俺には怖かった。
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