3
「ごめ、なさ……」
「………」
睨むと、日向が怯えて一歩下がったのがわかった。
俺は今まで、日向に背中を見せたことがない。
それは俺の背中に、見せたくない傷があるから。
幼い頃、兄に煙草を押しつけられたできた傷。
今は寮生活になり、逃げることができた。
それでも爛れた皮膚は、今も俺の背中一面に残っている。
「かい、ちょ」
「……近づくな」
見られたく、なかった。
この傷は俺にとっては忘れたい過去だったし、恥でもあった。
好きなやつには、絶対に、見られたくなかった。
「っ……触るなっ!」
「大人しくしてください。熱があるんですから」
背中にふわりと、温かいタオルがあてられた。
びくりと肩が揺れてしまったけれど、日向がゆっくりと身体を拭いてくる。
有無を言わせぬ日向の言葉の強さと、頭を麻痺させる熱のせいで、俺はされるがままになっていた。
「熱く、ないですか?」
「………」
「……寝てるんですか?」
「……寝てねえよ」
拒絶することは簡単だった。
部屋からおいだすことも、簡単だった。
けれど、そうすることは出来なかった。
きっと追い出したとしても、日向は聞かなかっただろうと、わかったから。
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