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「………」
「ん……」
汗で額に張りついた、日向の前髪を払った。
また、やってしまった。
夜中、眠ってしまった日向を見ながら後悔するのはいつものこと。
呼び出して、押し倒して、行為に及んで。
日向が拒絶しないのは、俺との権力関係もあるのだろう。
それをわかりながら利用して―――俺は日向を傷付け続ける。
「……ぅ……」
「……起こしたか、」
悪い、と言おうとして
「……ゆ、う……」
「っ……」
名前を、呼んだ。
起きたのかは定かではなく、日向は再び唸って身体を丸めて眠った。
「ひな……っ」
涙が出た。
ぽたりと日向の柔らかな頬にそれが落ちて、指で拭った。
頭をかかえこんで、日向を抱き締めた。
起こさないように声を殺して泣いて、ただ日向を抱き締めた。
何故、日向が俺の名前を呼んだのかはわからない。
聞き間違えだったり、偶然だったのかもしれない。
ただ確かなのは、明日の朝になれば、日向は俺を悠と呼んでくれないこと。
わかっていた。
弱みにつけこんで傷付けて、日向から嫌われていることも。
俺が拒絶されるのを恐れて、ちゃんと伝えることができていないことも。
「ひな、……ひな」
俺を、思い出して。
日向はただ、静かに眠り続けるだけだった。
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