2
 

日向は、何かを諦めたような顔をするようになった。
名を呼んでも、抱き締めても、身体中に傷付けても、ぼんやりとした眼は変わらない。
まるで感情を無くした、人形のようだった。



「楠本、」
「……はい……」
「何か飲むか」
「……いえ、」



ただじっと、ソファに座るだけ。

俺の部屋から逃げ出そうともしなかった。
「ここにいます」と、控え目に言ったきりだった。

あの日から。
思わず細い首に手をかけた時から、ずっと。



「っ………」



隣に座って頬に触れると、びくっと震えた。
けれど目には、色が戻らない。
構わず、唇を重ねた。
何度も何度も、重ねた。



「……好きだ」
「………」
「好きだ……」



返事はない。
あの日の日向は、もう、戻ってこない。



「あ……っ」



耳に噛み付いた。
首にも、肩にも、鎖骨にも。

痛がりはすれど、拒否はしない。
思い出せ、思い出せと、何度も傷付けた。
また俺の名前を呼んでくれ、と。



「……ひな……」



何度も、名前を呼んだ。
それでも日向は、呼び返してはくれない。



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