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side.日向
僕は退院してから、色んなことを知った。
昔、瀬川先輩と恋人同然の関係にあったこと。
僕が転校して離ればなれになったこと。
事故にあって記憶をなくしたこと。
偶然出会ったこと。
思い出して、付き合い始めたこと。
そして僕は、また記憶を失ったこと。
「………」
同じベッド。
隣に眠る瀬川先輩をちらりと見た。
違和感に首に触れると、絆創膏が貼ってあった。
これは罪だと思った。
「……ごめん、なさい……」
僕は繰り返した。
先輩を裏切った。
どんなに頑張っても頭が痛むばかりで、記憶は戻らなかった。
けれど、先輩に辛そうな顔をさせてるのは、僕だ。
罪滅ぼしのつもりだった。
許されるなら、良かった。
先輩を受け入れて。
傷付けられても、受け入れて。
それで許されるなら、良かった。
だから僕は、先輩の部屋を出て行かなかった。
「………ひ、な…?」
「……先輩、」
もぞ、と先輩が僕の身体を引いた。
温かいぬくもりに抱き締められた。
先輩の顔は、見えない。
僕はただぼんやりと、空を見ているだけだった。
いっそ、殺してくれればいいのに。
そうしたら、許してくれる?
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