6
side.日向
どうしてだろう。
もういいや、って。
そう、思ってしまった。
「っ……」
肌を撫でる血の感覚。
噛み付かれて、引っ掻かれて、抉られた。
喉仏に歯をたてられて、ぞくりと背筋が凍る。
それでも僕は、もっと、と思ってしまう。
「……いっ……!」
痛い、
身体が痛い。
もっと、心が、痛い。
そんな泣きそうな顔して、傷跡をつけないで、
「せん、ぱいっ………」
「っ………」
そんな顔をさせるなら。
僕のせいなら。
いっそ、殺してくれたらいいのに。
これっぽっちも残ってない先輩の記憶。
ただ感情だけが、黙って悲鳴を上げた。
「っ……俺のこと、嫌いか」
「……わか、ない……」
「………」
「でも、悲しい……」
そんな顔をさせることが、悲しくて仕方がない。
先輩は苦しそうに顔を歪ませて、僕の首に手を、 かけた。
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