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がちゃりと、俺の寮部屋を開けた。
「………」
「………」
「……覚えてない、か?」
「……ごめん、なさい……」
俺はそれ以上期待せずに、日向の荷物を置いた。
病院での精密検査は、日向が俺の記憶だけを忘れていることを示した。
ほぼ同棲のように過ごした俺の寮部屋も、このように忘れてしまっている。
静かに、拳を握った。
「疲れたろ、そこ座ってな」
「は、はい……」
日向がソファに座ったのを確認して、飲み物を用意しにキッチンに向かった。
退院してからも、退院するまでも、こんな感じだった。
日向は明らかに俺に怯えていて、すっかりどうしていいかわからなくなった。
けれど寮部屋に日向の荷物は大体あるから、ここに来ないといけないわけで。
「ん」
「ありがと、ござい、ます……」
両手でマグカップを包んで、こくりと小さな喉が動いた。
それだけで、どきりとする。
「荷物……運ぶから」
「え、」
「お前の。部屋移ったわけじゃないし、自分の部屋のが落ち着けるだろ」
日向は目を、合わせない。
「ごめん、なさい……」
そう言って、俯くばかり。
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