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「……っ否定、しないんだ」
「や、違う、ちょっと待て」
「僕は司にっ……相談、して、心配で、怖くて」
「ひな、」
「別れたいって、言われるんじゃないかって……っ」
なんて俺は、馬鹿なことを考えていたんだろう。
早く、謝らなければ、
「ひな、あのな」
「っ……もう、知らないっ」
「待っ……」
日向が駆け出して、屋上のドアを開けた。
階段を掛け降りようとして、
「待てって!」
「っ……」
俺が引き止めようと伸ばした手を振り切って、そのまま足が、
浮いた。
「ひなっ―――」
ひどく時間が長く感じた。
鈍い音の後に、静寂。
見下ろす階段の踊り場に、仰向けに倒れる日向がいた。
じわり、血が踊り場に滲んだ。
「っ……!」
駆け寄って抱き上げようとして、けれど頭からの出血に手を引いた。
内出血していたら、動かさない方がいい。
青白く、短い息をしている、日向は、
「悠、こんなとこに………っひ、日向!?」
「救急車っ……早くっ」
五十嵐から聞いて探していたのだろう、裕二が顔を出して驚愕した。
保健医でも呼ぶつもりかバタバタと走って行きながら、携帯を鳴らす音がする。
「ひな、ひなっ」
俺が追い詰めなければ。
早く気付いてあげれば。
すぐ謝っていれば。
手を、伸ばさなければ。
日向の返事は、なかった。
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