5
 

身体がほぅ、と温かかった。
和泉はぐんと大きくなってしまった。

僕よりも小さかった子どもが、僕をすっぽり包んでしまって。
抱き締められたその腕は、痛いくらいにきつかった。



「ごめん」
「っ、いや、」
「ごめんな」



ねぇ、行かないで。



「名前を呼んだら、俺は食べられてたんだろう」
「そう、だよ、だって僕は、神様だから」
「食べられたら、もう、会えなかっただろう」



何を、言っているの?



「ずっと、会いたかったから。名前を呼ばなかった」



会いたかった?
この一人ぼっちの神様に?



「志鶴」



甘い、声だ。
大人になってしまった、優しい声だ。



「やっと、呼べる」



人間の十年が、どれだけの価値を持つかは僕にはわからない。
僕は永遠を生きる神様だから。

でも、ねぇ、神様だけど、僕は人隠しの神様だから。
願いは叶えられない神様だから。
違う神様に願ってみよう。

これまでの十年も、これからの十年も。
めぐりめぐる何十年、この優しい人に、捧げて良いだろうか。
だって僕は、名前を呼ばれたから。
隠せないのに、名前を呼ばれたから。

『神社の狐の名前を呼んではいけないよ。隠されて戻れなくなるよ』

僕には大人を隠せない。
でも、呼ばれてしまったから。
ちっぽけな理由だろうか。



「志鶴、一緒に、行こうか」



人を隠せなくなった神様だから。
僕は、人を守る神様になりたいと、願うのだ。
この先のめぐるめぐる何十年、名前を呼ばれ続ける限り、この人を守る神様になりたいと願うのだ。



「うん」



―――いずみぃ、遊ぼう?

十年前の声が蘇った。

もう、夜明けは来ない。



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