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「いやだ」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
和泉が行ってしまうなんて、嫌だ。
「僕と遊ぼうって、行った」
「行った」
「行かないで」
「俺は行くよ」
「駄目」
「仕方が無いんだ」
「どうして」
「だってもう、俺は子どもではないから」
さわ、と風が吹いた。
夜の静謐が揺れた。
淡い桃色の花弁が、風に乗った。
桜が散って、空に舞って、季節が変わる。
夜明けはまだ来ない。
だってほら、まだ少しで日付が変わるような時間だ。
太陽はまだ眠ってる。
どうして、和泉は立ち上がるの。
「行かないで」
どうして僕は、泣いてるの。
楽しかったの。
行かないで欲しいの。
名前を呼んで欲しいの。
呼べば、食べなくてはいけないから。
呼ばないでと願いながら、名前を呼べと言い続けた。
その声に、優しく甘いその声に、ずっと呼ばれてみたかった。
でも、ほら、もう、日付が変わる。
和泉が大人になってしまう。
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