2
 

子どもの名前は、和泉と言った。



「いずみ、いずみ、遊ぼう」



和泉はいつも、冷たい目をしていた。
そのくせ握る手は燃えるように熱かった。

身体にいっぱい傷をつけて。
ガリガリに痩せた身体をして。
そのくせ燃えるように熱い。



「あんたは、冷たい手をしてるね」
「いずみが熱いんだよぅ」



もっふりとした尻尾を両手で挟んで、暖をとる真似をする。
僕の手は冷たいのだ。
だって、生きていないから。

和泉は決まって夜になると神社にやってきた。
どうでも良いことを喋って、夜明けを待った。

太陽が昇る一瞬の、その橙色の輝きが夜色を溶かす瞬間が、僕は好きだった。
和泉が笑ってくれるから。
朝日を見つめる目が優しく細まり、やがて和泉は、少しだけ笑うのだ。



「あんたじゃなくて、し・づ・る。志鶴だよぅ、覚えてる?」
「はいはい」
「もう」



僕達は、手を繋いで夜明けを待った。

和泉は僕の名前を絶対に呼ばない。
この地方に伝わる伝承をきっと知っているのだ。

火のないところに煙は立たない。
伝承は紛れもない、事実であり証だった。

『神社の狐の名前を呼んではいけないよ』

和泉が僕の名前を呼んだら、僕は和泉を食べてあげられるのに。
和泉は呼ばずに、熱い身体を燃やしながら、生きているのだ。

よくわからない。



前へ top 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -