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「おぅい、おまえ」



夜は静謐を孕んでいた。
月明かりがぽっかりと眩しい。

夜色の空の下、子どもが一人、鳥居をくぐった。
人間は陽の下でないと動かないと思っていたのに。



「なに、しにきた?」



鳥居の上から見下ろして、小さな子どもに問いかけた。
知っているそれとは違う、冷やかな目が僕を捕えた。

なんて、冷たい目をしているんだろう。
弧を描いた、月のよう。



「逃げてきた」



子どもは、見た目の想像よりも低い声で行った。
その声もぴしゃりと冷たい。

面白いなぁ。
僕は大きな尻尾を振って、ぴしぴしと固い鳥居を叩いた。

子どもの目の前に飛び降りると、下駄がカカン、と石畳を叩いた。
夜に響くのは、神社の静謐さのせい。



「僕と、遊ぶ?」



くるり、回ってみせる。
大きな尻尾と赤い着物がぞろりとはためいた。

そろりと手を伸ばすと、子どもは冷たい目をしたまま。
僕の手を掴んだ。



僕の名前は神隠し。
人を隠して食べる、神様。



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