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この部屋にきて、わかったことがいくつかある。
少年はここに一人で住んでいること。
もともとは母親と二人暮らしで、母親とその恋人から虐待を受けていたこと。
母親が出て行き、餓死寸前だったこと。
けれど、少年の名前は、未だに知らない。
「しき」
「なに」
「あなたは、だれ?」
「俺は、人殺し」
「どうして、ぼくをころしてくれないの」
「…………」
「ねぇ、しき、どうして?」
身体を動かせるほど回復した少年は、ベッドの上に座り、首を傾げた。
俺は答えられる気がしなくて、ベッドから離れて行った。
どさっ、と重い物が落ちる音がした。
振り向くと、少年がベッドから落ちてしまっていた。
足の筋力が戻っていないせいで、立ち上がることは出来ないのだ。
仕方ないなと溜息をつき、ベッドに戻った。
少年を抱き上げてベッドに下ろすと、ぐい、と顔を引きよせられた。
俺の両頬に、少年の小さな手がある。
至近距離にある少年の顔に、思わずどきりとした。
「しきは、やさしいね」
「……やさしくなんか、ねぇよ」
「やさしいよ」
優しいのは、少年だった。
誰も憎んだりしなかった。
思い出話のように語った、母親との日々も。
「僕が邪魔だったんだろうね」と申し訳なく呟いた。
「やさしいから、ぼくは、しきに殺されたいな」
「……はぁ?……なんだよ、それ」
「だって、しきは、泣いてくれるでしょう」
少年は残酷なほど、優しかった。
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