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病院に連れていくことは出来なかった。
行けば俺は捕まり、死ぬと思った。
人を殺すことは良くて、自分が死ぬことは嫌で。
あまりの自分勝手さに、自嘲した。
少年は、自分を殺せと言った。
俺は、人を殺したいと思った。
でも、出来なかった。
生かさなければと思った。
こいつだけは、殺せないと思った。
出来ることはやった。
部屋を綺麗に片付け、意識が朦朧としている少年に、食事を与えた。
知り合いの闇医者に頼み込んで、治療もしてもらった。
「らしくない」と笑われ、「かもな」としか答えられなかった。
誰かを助けたいと思ったなんて、初めてだった。
少年がはっきりと目を覚ましたのは、一週間後のことだった。
濡れたタオルで顔を拭いてやっていると、ふ、と目を開いた。
「……か、みさま」
「……俺は、神様じゃない」
「……でも、きれい」
俺の容姿を言っているのだと気付いた。
この容姿のせいで、色んなものを失った。
この容姿のせいで、あるべき父親の姿を失った。
父親のせいで、母親には軽蔑された。
憎い。
目の前のひ弱な少年が、憎かった。
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