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はぁ、はぁ、というか細い息は、部屋のもっと奥から聞こえてきた。
いつでも逃げられるように、俺は土足のまま上がり込んだ。

小さなアパートだった。
玄関から入ってすぐに狭いダイニングがあって、その奥に一部屋。
またその隣に、一部屋。

そこに、息はあった。



俺より少し年下くらいの、少年だった。
明らかにサイズに合っていない、ぶかぶかのシャツをきた少年。
何も敷かれていないフローリングに蹲って倒れ、少年は顔を髪で隠しながら、小さく息をしていた。

もうすぐ、死ぬんだろうとわかった。

首には赤黒い、絞められた跡があった。
シャツから覗いた手首は折れそうなほど細かった。
顔を隠す髪は、乱れて痛んでしまっている。
細い、細い息だった。

つま先で背中を小突くと、ころりと少年は仰向けになった。
はらりと髪が落ちて、顔が見える。
真っ白な肌だった。

ぐい、と胸元を掴んで引きあげると、かくんと体重を感じさせない少年は簡単に持ちあがった。
そっと、目が開かれた。

色素の薄い、綺麗な目をしていた。



「…………かみさま?」



少年は、中性的な声で言った。
そして、ほっとしたように目を閉じ、呟いた。



「はやく、ころして」



放っておいても、お前は死ぬさ。

渇いた喉から、声は出なかった。
ただ、零れたのは涙だった。

何故自分が泣いているのか、わからなかった。



これが、俺と名前の無い少年との出会いだった。



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