5
 

少年は優しかったから、酷く、甘く、優しかったから。
俺はもう、人を殺せないと思った。

俺の顔を引き寄せる、小さな手に触れた。
体温を忘れたように、それはひやりと冷たかった。

ぎ、とベッドに膝を乗り上げ、少年の頭を引き寄せた。
微かに触れた唇は、やっぱりひやりと冷たかった。



「……しきは」
「あ?」
「僕のことが、すきなの?」
「……好きなわけあるか」



言いながら、もう一度唇を重ねた。
細い腰を引き寄せると、びくりと驚いたように震えた。

優しい、優しい、この少年のために。
俺は生きていこうと、決めた。



この少年が、死んでしまわないように。



「お前、名前、なんて言うの」
「……わかんない」
「はぁ?」
「呼ばれたこと、ないんだぁ」



ふわ、と少年は笑う。



「しきが、つけていいよ」



最初で最後の、少年の存在を記す儀式。
一瞬考えて、少年の耳に、口を寄せた。



「   、」



「きれいな、なまえ」



誰にも教えない、俺だけの名前。



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