5
俺と綾が過ごしてきた時間は、朝倉や葵と過ごした時間より、増えることはない。
それは代わりのない事実で、俺が知らない綾も、綾が知らない俺も、いることは仕方がない。
けれど、それを見せつけられるのは、ずっと一人だった綾には酷だっただろう。
「し、仕方ない、けど、わがまま、だけどっ……でも、俺は、悲しい、」
「ん」
「一人ぼっち、に……なった、みたい」
「ん、ごめん」
綾には俺しかいない。
そう思うのは奢りでしかないと思うけれど。
綾はしっかりと、俺を掴んでくれるから。
俺も大事に、綾を抱き締めた。
「もう、一人じゃないだろ」
「ん……」
そうは言っても、抱き締め返された腕は、思いのほか強かった。
赤くなってしまった瞼にキスすると、びくりと身体が震えて、じっと見つめられた。
「何で口じゃないの……」
「……口がよかった?」
ちゅ、と軽くキスすると、ふにゃりと綾は笑って。
「俺がこういうことすんの、綾だけだろ」
「……ん」
綾の知らない俺を、朝倉や葵が知っているように。
朝倉や葵が知らない俺を、綾だけが知っている。
まだ知らないことはたくさんあるけれど。
知りたいこともたくさんある。
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