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side.満月



いつも恭平は家に帰るのが遅かったから、帰宅したときに誰かいるなんて思ってもみなかった。
鍵を開けると想像通り明かりはついていなくて、けれど玄関の壁に背中を預けるようにして恭平が立っていたから、驚いてしまった。

俺は声を出せない。
「今日は帰りが早かったの?」と問うことも出来ず、ただ笑って首を傾げた。
「おかえり」といつものように抱き締めようと思った。

靴を脱いで家に上がって。
その瞬間、ちらりと恭平が俺を見て―――その表情は、氷のように冷たかった。



「ッ……」



ぐい、と無言で腕を引かれた。
転びそうになりながらも慌てて着いて行く。
「何?」と聞く代わりに俺の腕を引く手を叩いてみるけれど、反応はなかった。

―――怖い。

反射的にそう思った。



寝室に連れられて、あっという間に押し倒された。
怖い、嫌だ、と声は出ず、じたばたと暴れた。
けれど力で恭平に勝てるはずもなく、頭上で一纏めにされてしまった。



「……誰のもんだと思ってる」



低い声がした。
言葉の意味はわからなかった。

明かりのつかない寝室では、恭平の表情は見えなかった。



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