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それは、俺が珍しく仕事が早く終わった日のことだった。

足早に帰路に着いた。
満月はいつも家にいて、家事をしてくれていた。

何かお土産でも買っていこうか。
連絡も無しに突然帰ったら、驚くだろうか。
そういえばあそこのロールケーキが美味しいと喜んでくれた。

そんなことを考えながら、帰路を外れて店の方へ向っていると、



「っ……?」



家にいるはずの満月が、そこにいた。

満月は声を出せないせいで、一人で外出することに多少の恐怖を感じていた。
いつも俺と一緒のときではないと出かけていなかった。

満月は、路面がガラスになっているカフェにいた。
一人で?と思ったのもつかの間、向かい合っているのは俺と満月の共通の友人であるということに気付いた。

二人で、何故そんなところで。
目が離せなかった。
会話は聞こえなかったけれど、満月は楽しそうに笑っていた。



気付いたら、家に帰っていた。

やはり家には誰もいなかった。



沸々と怒りのようなものが湧いていた。

俺の中心にはいつだって満月がいて。
満月がいるから俺の世界は回っていて。

満月だって、そうだと思っていた。
俺がいなければ何もできない。
頼ってくれるものだと思っていた。

けれど満月は満月で、俺の知らないところで知らないことをしていて。
俺だけが依存していたのだと思い知った。



認めたくは、なかった。



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