3
side.裕二
久しぶりに仕事が早く切り上がった。
軌道に乗って絶好調なのはいいことだけれど、やはりプライベートでゆっくりしたいという気持ちだってある。
朝起きて、夜眠る前、ずっと千夏の寝顔しか見られなかった。
今日は、ぎゅっと抱きしめてあげよう。
たくさん笑わせてあげよう。
そう思って、ドアを開けた。
「ただいまー」
早く帰るとは言っていなかったから、驚くかもしれない。
いつものように玄関に迎えに来てくれるだろう。
そう、思っていたのに。
「げほげほっ、げほっ……」
「!」
聞こえてきたのは苦しそうな声。
慌ててトイレに向かった。
「ちなっ」
崩れ落ちるようにして、吐いていた。
壁についた手は小刻みに震えていた。
背中に手を添えると、それはびくりと反応して。
体温を忘れてきたように、身体は冷たかった。
「、ゅ、じ」
「ん、ただいま。きつい?我慢しなくていいよ」
嘔吐を促すように背中を撫でると、千夏はまた喉を震わせた。
いつからこんなに体調を崩していたんだろう。
ぎり、と奥歯を噛みしめた。
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