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朝起きると、裕二はいつもいない。
ベッドの上で、隣のシーツの冷たさを掌に感じた。
(……また、)
いってらっしゃい、を言えなかった。
裕二と同棲を始めてしばらく経った。
僕は家で家事をして、その間裕二は仕事に出ている。
仕事が軌道に乗り始めて、裕二と顔を合わせることが少なくなった。
甘えてはいけないのはわかっている。
二人で生きていくために、各々のやることをしなければならない。
僕は、立ち止まってはいけないのだ。
朝早く出て、夜遅く帰ってくる裕二のために。
僕は、笑っていなければいけない。
「ちな」
そうすれば裕二も、にこりと笑ってくれるから。
僕は、立ち止まってはいけないのだ。
「っ……」
お腹がきりりと痛む。
理由はよくわからない。
前屈みになりながら、ベッドを出た。
今日も一日が始まる。
たった一人の一日が。
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