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時は少しだけ前に遡る。
「りょう、りょっ……」
綾の呼ぶ声で目が覚めた。
自分が今何をしていたか、ゆっくり思いだす。
寝室から出ようとして、視界が歪んだ。
気付いたら、床に倒れていて。
「やだ、しんじゃ、やだっ……」
綾が涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、俺を見下ろしていた。
「綾……?」
「朝倉さっ……呼んだ、から、だからっ……」
「あ………」
そうか、俺、倒れたのか。
最近体調がすぐれないとは思っていた。
けれど、自分に心配をかけてる余裕はなくて。
これは朝倉に怒られるなぁと思いながら、のろのろと身体を起こす。
「だめ、寝てなきゃ、っ……」
「あー……大丈夫、ソファまでだから……」
言いながらもよろける身体を、綾が支えてくれた。
ソファに座ることもままならず、横たわった。
傍らで俺の手を、綾の小さな手が包んでくれた。
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