5
「……綾」
綾は、部屋から出てくることはなかった。
ずっと部屋の隅っこで、身体を丸めている。
俺が寝室に入ると、きっと睨みつけてきた。
「飯、」
「………」
睨みつける目は、揺るがない。
一度リビングに戻り、お盆に晩ご飯を乗せて、寝室に入った。
「置いとくから……」
それでも目線は、揺るがない。
少し前に冷えるだろうからと置いたタオルケットも、手つかずのままだった。
近付くことは、できなかった。
そうさせない綾の雰囲気と、これ以上近付くと何をしでかすかわからない、綾の危うさ。
それくらいに、俺は綾を傷つけた。
裏切りを感じさせてしまった。
だからただ、今は何も出来ずに、リビングに戻った。
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