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旅行なんて行ってみてもいいかもしれない。
思い出という思い出を持っていない綾を、少しでも楽しませてやりたい。
そんな思いばかりが頭の中で巡る。
身の入らない大学の講義を終えて、買い物は一緒に行こうかと足早に家に帰った。
「ただい、ま……?」
いつもなら、おかえり、と声をかけてくれるのに。
暗くなりはじめた空を映す窓が、部屋に影を落とし始める。
電気をつけると、リビングの上に携帯電話が置かれていた。
真っ二つに割られた、綾の携帯電話。
「……?」
寝室から物音が聞こえて、なんとなくそっと、ドアを開けてみた。
「綾……?」
「………」
綾は、暗い寝室でじっとこちらを睨んできた。
ベッドと壁の間、部屋の隅っこに座って。
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