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警察から連絡があった。
綾の落とした携帯が届けられたという。
唯一メモリーに残っていた、俺の番号に連絡がくることになった。
届け人は、知っている。
綾を傷つけた、トラウマの原因にもなった、岡崎だ。
「携帯、見つかったって」
「え、ほんと?」
「駅前の交番に届けられてるらしい」
電話を切って告げると、綾はソファから跳ね起きた。
とっくに諦めていたのか、明らかに嬉しそうな顔をする。
「取りに行こっかな!」
「ん」
にこにこ笑う綾を横目に、大学に行く準備をする。
随分と、表情が増えたと思う。
柔らかくなったというか。
人嫌いなところがあって禁止していたけれど、そろそろアルバイトなんかもさせてみてもいいかなと思ってみたり。
ちょっとずつ、前に進んでる。
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