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「……あれ」



大学が終わって、近道のビルの隙間を抜けたところ。
マンションに駆け込む、桜木の後ろ姿が見えた。
……何急いでんだ。

案の定、部屋の鍵は開けっ放しにされていて、



「ちゃんと鍵締めろ、って……?」
「はぁっ……はっ、」
「……おい、」



全速力で走ったからとか、そういう理由じゃ片付けられない息の荒らさ。
玄関に座り込んだままで、靴も履きっぱなし。
顔色は、最悪だった。



「ちょ、平気……じゃねぇよな、」



涙を浮かべる桜木を抱き上げて、洗面所へ。
目に見えて荒れたのは久々だ。
理由はわからないけれど、後回し。



「一回吐け、な」
「や、っ」
「吐いたら楽になるから」



首をふるふると振った桜木を無視して、口に指を突っ込んだ。
舌を押さえて背中を擦ると、



「っ……う、ぁっ……」



苦しそうだけれど、ひとしきり吐いたら顔色は少し良くなった。
桜木がくたりと意識を失って、頬に一粒涙が零れた。

ちらりと見えた鎖骨に、引っ掻き傷が見えた。
煙草を押し付けた跡に重ねられたそれは、まるで消そうとしたみたいだった。



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