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一瞬、理性が飛んでた。

桜木はただのガキで、同居人で、それ以上でもそれ以下でもなくて。
意地っ張りで我が儘で、実は泣き虫で怖がりで、気が付いたら近くにきて甘えて。



(……あれ)



可愛くて、愛おしくて、大切にしたくて。
誰にも渡したくない、そんなやつ。



(………おかしいな)



いつから変わったんだ。

傍にいてやらなきゃと思っていたのに、いつの間にか、こっちが傍にいてほしくなってた。



「こんなはずじゃ、なかったのになぁ……」



一人呟いて、明日からどんな顔すりゃいいんだと頭を悩ませた。
気付いてしまって、今までみたいに普通に過ごせるほど、俺は器用な人間じゃない。



「むぅ……」



お前のせいだ、と桜木の口を指で摘んでやった。
むぎゅ、と唇が歪んで、笑いそうになる。



「うー……っ」



いやいや、と桜木が嫌がってくるりと俺に背中を向けた。
そのまま後ろから抱き締めてやる。

明日も隣にいるなら、それで、いいか。



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