5
それからのろのろと活動を開始したけれど。
(……弱った)
飯を作ろうとしても。
トイレに行こうとしても。
シャワーを浴びようとしても。
綾はぴったりと俺に抱きついて、離れようとしなかった。
「えーっと……」
ソファに座っても、当たり前のように膝の上に乗ってくるものだから、自然と手が頭を撫でてしまう。
それに嬉しそうにするものだから、止められない。
「綾、どした……?」
会話という会話もあまりしていない。
綾は食事する俺にも抱きつくだけで、まだ何も食べていない。
「んなことしなくても、俺はどこもいかねぇから。な?」
言うけれど、何故かふるふると首を振られ、抱きつく腕が強くなる。
……どうしたことか。
「……っから、」
「ん?」
「ずっと、離れてた、からっ……勿体な、から……」
今までの距離を埋めるように。
触れていなかった時間を取り戻すように。
綾はずっと、俺を抱きしめ続ける。
それが愛しくて、愛しくて。
負けない強さで、俺も抱きしめた。
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