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「は、っはぁ、はぁ……っ」
「ゆっくり、落ち着いて、大丈夫」



過呼吸を起こすことだって珍しくはなかった。
深呼吸を促すようにゆっくりと背中を撫でるけれど、それほど簡単なものではない。



「こわ、ぃ、けほけほっ……たすけて、いや、」
「………っ」



毎回思うのは、自分の無力さだった。
傍にいてやれても、奈津の恐怖を拭ってやることは出来ない。
傍にいてやれても、その記憶を奪い去ることは出来ない。

ずっと苦しまなければならないのだ。
塗りつぶすことなんて、できないのだ。



「もう、怖くない」
「んぅっ……」



奈津の血色の悪くなった唇に、自分のそれを合わせた。
奈津の酸素を奪って、過呼吸の対処に試みる。



「っはぁっ、げほげほっ、ん、んんっ……!」



何度も唇を重ねて、背中を撫でた。
奈津は苦しさからか顔を背けようとするけれど、しっかりと後頭部を固定した。
ぎゅう、とシャツを握られる。



「っん、ぅ……っあ、はぁ、は……」



苦しそうに頬を少し蒸気させた奈津は、過呼吸の苦しみから逃れた途端、ふっと意識を手放した。
ぐったりと俺の腕の中に倒れ込み、細い身体を抱えて寝室に向かう。

寝かせてもなお、奈津はくたっとしたまま、目を覚まさなかった。



「……ごめん」



せめて、夢だけは良いものでありますよう。



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