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side.航



嫌な予感はしていた。

買い物を済ませ、家はもう目と鼻の先と言ったところ、聞こえてきたのはバイクの騒音だった。
閑静な住宅地に騒音はひどく響く。
ベランダを閉めているとはいえ、この音は部屋の中にも届いているだろう。



「奈津、」



もはや駆け出す勢いで、部屋に戻った。



二年前のあの日、奈津は、誘拐された。

証言は奈津からは得られなかった。
与えられた暴力と性的暴行によって、奈津の精神は崩れてしまっていた。
結果として目撃証言により犯人は捕まったが、奈津に残された傷は癒えることはなかった。

地元にいる限り、その事件を知る者は多い。
そして、奈津自身もフラッシュバックとして思い出してしまう。
一緒に地元を離れて進学することを買って出たのは、俺だった。
その頃には奈津が好きだと思っていたし、傍にいてやりたいと思っていた。

あれから二年、奈津の心は癒えてきてはいるものの、完全に治ることはなかった。
刷り込まれた恐怖の記憶は、いつだって思い出される。



「奈津っ!」



部屋に戻って荷物を投げだした。
物音ひとつせず、部屋は静まり返っていた。



「っは、ぅ……けほけほっ」
「!」



奈津はキッチンの奥で座り込んでいた。
ぐったりと壁に身体を預けて、俯いていた。



「奈津、大丈夫、俺帰ってきたよ」
「……こ、ぉ、こお、いや、こわい、こわいっ……」
「ん、」



錯乱するのは初めてじゃなかった。
ちょっとしたきっかけが、恐怖の引き金になる。
ガタガタと震える奈津を抱きしめて、背中をさすった。



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