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「あっ、卵切らした」



家に帰って宿題もそこそこにし、僕達は晩ご飯を作ることにした。
料理をし始めて束の間、買いそびれた卵の存在に気付いた。



「ちょっと買ってくる。何か他にいるものある?」
「んー……ない、多分」
「わかった」



航は財布と携帯だけを持って、外に出て行った。
まだ日が残っている、夕方だった。

航が買い物に出ている間にと、下ごしらえを済ませていく。
最初はこの生活を始めて、二人とも料理はからきしで、大変だった。
けれど少しずつ慣れ始めた。

そうやって、色んなことを学びながら過ごしていくのが、楽しかった。
知らないことを知って行くのが、楽しかった。
二人なら何も怖いことなんてなかった。



「っ、!」



ぶんっ、とベランダの向こうから音がした。
バイクが大きな音をたてて走り去る音だった。

大通りから離れた立地にあるとは言え、騒音はゼロではない。
思わず身体が身ぶるいし、握っていた箸を落とした。



(駄目だ、落ち着け、大丈夫、大丈夫……)



耳を塞いでキッチンに座り込んだ。
集団でバイクを走らせているのか、騒音は指の間をすり抜けて聞こえてきた。



思い出す、あの日。



バイクの音、カビ臭い倉庫、男の笑い声、身体中を張る手。



(こう、早く、かえってきて)



震えは、止まらなかった。



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