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「奈津、帰ろー」
「ん」
隣のクラスの航は、僕の幼馴染であり、恋人だ。
ずっと一緒にいたから気付かなかったけれど、この想いが『好き』なのだということに気付くのは時間がかかった。
航は何でも知っていて、いつも隣にいてくれる。
僕が生きていくために必要な、『酸素』のような人。
「はい、手」
航は周りの目を気にせずに、手を繋ぐ。
最初の頃は恥ずかしかったけれど、僕もそれに応じるようになった。
手を繋ぐと、航は嬉しそうに笑うから。
小さい頃から繋いでいた航の手は、僕のよりもぐんと、大きくなっていた。
「今日のご飯何にする?」
「んー」
「お昼はカレーだったからー」
手を繋いで、他愛もない話をして。
揃って実家を離れた学校に進学したから、僕らは一緒に住んでいる。
家族のような、兄弟のような、友人のような、恋人。
四六時中一緒にいる。
『あの日』から、航は尚更僕のもとを離れなくなった。
それは実家を離れる理由になった一つ。
航はきっと、自分自身を責めている。
航は悪くなんかないのに。
これ以上、航の負担になりたくない。
そう思うのに、やっぱり僕は、航に頼ってしまうのだ。
航がいなければ、僕は生きていけない。
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