5
 

「ん、わかった」



自分が死ぬのだと言うのに、陽は驚くほどの理解の良さを示した。
僕は何も言えずに黙っていた。



「ごめんね」
「え……?」



陽は確かに、そう言った。



「また、置いてけぼりにしちゃうね」



「一人にして、ごめん」



陽は、自分のために泣かなかった。
僕のために、静かに、泣いた。



「よ、陽、」



僕は慌てて陽の頭を抱いた。
陽は黙って、僕の腰に腕を回した。
肩に顔を埋められて、くすぐったかった。

もう何日かしたら、この腕の中の温かさはなくなるのだなと思った。
実質が物質になって、物質も火に焼かれ、消えていく。

僕は、陽を、忘れたくないなと思った。
一生、背負っていこうと思った。



陽の頭越しに、勉強机が見えた。
ペン立てにあったのは、鋏だった。



「咲?」



花が枯れると、その人は死んでしまう。
花が無くなると、その人は死んでしまう。

僕が一生背負い続ける。
忘れないために。

鋏を手に取ると、陽は一つ、微笑んだ。



「俺は、咲のこと、ずっと好きだよ」



その姿を目に焼き付けた。

僕はその鋏で、陽の花を、切り落とした。
花は、一瞬で枯れた。



僕の手には、陽の血で染まった鋏が握られていた。

陽は、心臓を僕に刺されて、死んだ。



僕の心臓には、同じ向日葵が咲いた。
やっぱり、と思った。



僕もずっと、陽のことを好きでいるのだと、決めた。



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