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両手を解放しても、瑠依は動かなかった。
観念したように、震える身体を必死で無視するように、ただじっとしていた。
ぽろ、と涙が大きな目から零れた。
過去のトラウマなんか知らない。
チームを組んでいるとはいえ、そこまで世話する義理はない。
けれど、放っておけない。
(仕方ないなぁ)
小さな身体を抱き起こして、怖がらせない強さで抱き締めた。
骨が浮いている背中を撫でて、浅い息を深くするように促す。
「もう何もしないから、落ち着いて」
言うほど簡単ではないらしく、瑠依はガタガタと震えながら、息を詰めていた。
「ほら、我慢しないで、全部吐き出しな」
誰とも関わろうとしないのは、自分を守っているから。
他人を突き放す態度は、他人を信じられないから。
吐きだすことを、このこは出来ない。
頭をぽんぽん、と撫でてやると、ひくっとしゃくりあげた。
「ひっ、ぅ、うあ、うぁー……っ」
「いっぱい泣いて、忘れな」
「ひぅ、っく、」
無事だった瑠依の左手が、ゆっくりと俺の背中に回った。
不本意ながら、どきりとした。
未だベッドに投げ出された右手を見る。
手に巻かれたテーピングはとれてしまっていた。
潰れたマメや、瘡蓋のとれない傷でいっぱいだった。
このこなりに、努力したのだろう。
生きてい4くためには、こんな仕事しか出来なくて。
忘れられないトラウマを持って、努力して、ここまでのし上がってきたのだろう。
弱いくせに、強い。
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