6
「名前、なんていうの」
少年は『ゆき』と打った。
冬の名前だった。
「はい」
ひしゃげた箱より、大きなそれを、ゆきの目の前に掲げた。
大きな目をさらに大きく見開いて、ゆきは俺を見上げる。
「誕生日おめでとう、ゆき」
ひしゃげたケーキのなかについていたプレートには、誕生祝いの文字が書いてあった。
名前の季節感とともに、今日がゆきの誕生日なのだろう。
ゆきが買ったものよりも、大きな大きなケーキ。
余ったものを自腹で買ったのは内緒で。
チョコプレートに書いた俺の字は、少し汚いけど気にしない。
「一緒に、食べよう」
ゆきは、一人だと言った。
一人で闘っていた。
名前も知らない俺なんかと、それでも、一人では無くなるから。
『ありがとう』
ゆきは泣きながら、携帯で打たずに口の動きで、そう言った。
ゆきの謎は、ようやく解けた。
俺の謎は、これから解かれるらしい。
『なまえ なに?』
自己紹介よりも早く食べた2人のケーキは、とてもとても、甘かった。
前へ top 次へ