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「名前、なんていうの」



少年は『ゆき』と打った。
冬の名前だった。



「はい」



ひしゃげた箱より、大きなそれを、ゆきの目の前に掲げた。
大きな目をさらに大きく見開いて、ゆきは俺を見上げる。



「誕生日おめでとう、ゆき」



ひしゃげたケーキのなかについていたプレートには、誕生祝いの文字が書いてあった。
名前の季節感とともに、今日がゆきの誕生日なのだろう。

ゆきが買ったものよりも、大きな大きなケーキ。
余ったものを自腹で買ったのは内緒で。
チョコプレートに書いた俺の字は、少し汚いけど気にしない。



「一緒に、食べよう」



ゆきは、一人だと言った。
一人で闘っていた。

名前も知らない俺なんかと、それでも、一人では無くなるから。



『ありがとう』



ゆきは泣きながら、携帯で打たずに口の動きで、そう言った。

ゆきの謎は、ようやく解けた。
俺の謎は、これから解かれるらしい。



『なまえ なに?』



自己紹介よりも早く食べた2人のケーキは、とてもとても、甘かった。



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