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「あの……裏、行きましょう」



話しかけても、その子は動かなかった。
ようやく頭の中で理解できたように、時間差でぽろりと涙を流した。

自分の身に起こったことではなく。
怪我を負わされたことでもなく。
ケーキのことで、その子は泣いた。



埒があかないので、半ば抱えるようにしてその子を事務所に連れて行った。
落ちてしまったケーキの箱も一緒に。
ちらりと見えた控えめな喉仏や、胸を見るあたり、一応少年らしいことがわかった。

休憩室にもなっている事務所内で座らせて、涙が収まるのを待った。



「大丈夫ですか?痛みませんか?」



話しかけると、ようやく少年はふるふると首を横に振った。

そこで、気づいた。
ポロポロと泣き続ける少年は、まだ一度も、声を発していなかった。



「……ケーキ、誰かへのプレゼントだったんですか?」



備えてある湿布を手に貼ってあげながら、なんとなく聞いた。
反応は期待していなかったけれど、少年はぱっと顔を上げて、自分自身を指差した。



「……自分に?」



少年はこくりと頷いて、ポケットから携帯を取り出した。
無事だった右手で文字を紡いでいく。



『がっこうに いけた ごほうび』



いつも着ているダッフルコートばかりに目が行っていたが、着ているズボンは学校指定のそれだった。
そういえば終業式があったって、お客さんが言ってたっけ。



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