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クリスマスの、その日。
カフェも併設してるバイト先は大賑わいで、キッチンからホールへのヘルプに出ていた。
慣れないホール作業をしていたとき、
「あっ……!」
テイクアウトコーナーにいたのは、いつものショーケースを見つめていた子だった。
違うのは、片手にケーキが入っているであろう箱をしっかり持っていること。
首にかけた巾着にお金をきちんと入れて、店から離れようとしていた。
次の瞬間、路面にあるショーケースから振り向いたその子は、ちょうど走ってきた自転車とタイミング良くぶつかってしまった。
「だっ……大丈夫ですか!」
気付いたら俺は店の外に出ていた。
現場を見ていたのは丁度俺だけらしく、ぶつかってきた自転車も走り去ってしまった。
ぶつかった衝撃でバランスを崩して座り込んでしまったその子は、声をかけた俺の方は全く気付かないようだった。
ただ一点に、飛ばされて横倒しになった、ケーキの箱を見つめて。
半分ひしゃげてしまっているそれは、開けずとも結果はわかっていた。
「桐谷くん、その子怪我してる……事務所連れて行ってあげて、そこ危ないし」
「あ……はい……」
先輩アルバイトに言われてはっとする。
ケーキの箱を持っていた左手が、あざになっていた。
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