6
 

「……俺の血を、飲むか」
「えっ」
「今まで誰の血を飲んでたんだ」
「の、飲んだこと、なくて」
「え?」



そう、僕は今まで誰かを好きになったことがない。

家で食事のように出される血は定期的に飲んでいたけれど、美味しいとは思えなかった。
人から直接飲むことは、誰かを好きになったことがない僕には、未経験なのだ。



「美味しく、ないんです」
「血が、か」
「美味しい、は、好き、と同じ、なんです」
「好き?」
「好きな人のは、美味しいって感じるんです」



僕は目を伏せる。
先輩を見てしまえば、噛みつきたくなるから。



「ごめ、なさい、きもちわるい、ですよね……」
「………」
「先輩に近付くと、いい匂いがして……血が欲しくて、たまらなくなって……」



別れを告げよう。
人間じゃない僕を、先輩が好きでいてくれるわけがない。

思い切って顔を上げると、



「え……?」



先輩は真っ赤な顔をしていた。



「な……え、え……?」
「……俺の血が欲しくてたまらないということは、」



気付いたら、大きな腕といい匂いに包まれていた。



「俺が好きでたまらないということだろう?」



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