5
 

「裕二」
「親父……」



静かになった、病室。
千夏は鎮静剤を打たれて、大人しく眠っていた。
頬に残る涙の跡と、今しがたついた首の傷跡を、直視できなかった。



「大丈夫か」
「……俺は、平気だよ」



そんな心配されるような顔、していただろうか。
椅子に座る俺の頭を、父親がぽん、と撫でた。



「……俺、どうにかしてやりたい」
「………」
「笑わせて、やりたい」



あんな、苦しみの表情じゃなく。
痛みの、声じゃなく。



「ゆっくり、な」
「うん……」



千夏は静かな寝息をたてて、眠っている。
額にはりついた髪を払ってやった。
微かに反応した、呻き声が聞こえた。

それだけで、嬉しかった。
死んだように眠っていた千夏が、目を覚ました。
この子は生きてる、と涙が出そうになった。



「………ん、」



小さな身動ぎ。
必死に、生きようとしているかのような。



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