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「最近忙しそうだな、実家に戻ったって聞いたし」
「ん……ちょっと事情があって」
俺は生徒会副会長を務めている。
行事がない限り毎日忙しいというわけじゃないけれど、多少なりとも仕事はある。
声をかけてきたのは、生徒会長の瀬川悠だ。
一番の親友でもある。
「無理するなよ」
「わかってる。ありがとな」
じゃ、と俺は生徒会室を出た。
向かうは自宅だ。
親友とはいえ、まだ言うことはできなかった。
「……ただいま」
自宅隣の病院。
いつもの個室に行き、ベッドの隣にある椅子に座った。
「調子はどう、千夏」
佐伯千夏。
家族も出生も何も持っていない彼が、唯一持っていたもの。
その名前だけが、救いだった。
「顔色、良くなってきたね」
返事はないとわかっているけれど、期待せずにはいられない。
そっと、柔らかい髪を梳くように撫でた。
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