5
身体的な疲れもあったのだろう、千夏は泣きじゃくって、そのまま眠ってしまった。
ベッドに寝かせて、俺は千夏の部屋の隣、自室に戻っていた。
「……くそ、」
わからなかった。
どうして千夏が泣いていたのか。
いらないなんて、言った覚えはない。
気に入ってくれるといいなと考えた部屋を、見た瞬間の事。
気に入らなかった?
いや、そんな理由じゃないはず。
悶々と考えていたときのことだった。
「……!」
ばたんっ、とドアが開く音がした。
「あ、あぁーっ……あ、っ」
廊下から聞こえる、千夏の声。
慌てて部屋の外に出た。
「ちなっ」
「あ、あっ、ゆ、じっ……」
床にへたりこんでいた千夏は、涙で顔をくしゃくしゃにしていた。
駆け寄った俺にしがみついて、肩に顔を埋めてきた。
「怖い夢、みた?」
「ち、がっ……おきた、なくて、」
「ん?なにがない?」
「ゆうじ、が、ない……っ」
え、と耳を疑った。
「おきた、ひとりっ……こわ、いや、ひとり、や……っ」
「あ……」
今までは、一緒に眠っていたから。
寝るときも起きるときも、隣のベッドにいたから。
千夏の部屋に、俺のベッドはない。
だから、『いらないこ』だった……?
俺が、離れてしまったと、思ったのだろうか。
「ごめんな……びっくりしちゃったね」
「ん、ん……!」
「ごめん、怖い思い、させた……」
千夏が怖がるのは、他人とふれあう事と、一人になってしまうこと。
植え付けられた売られる恐怖と、閉じ込められた過去と、人に対する感覚と。
俺一人が千夏のそばにいるだけで、それらを解消できることは、知っていたはずなのに。
「ひっ、ぅ……う、えー……っ」
怖がらせてしまった。
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