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震えだした千夏を、咄嗟に抱き締めた。



「こわ、い、こわ……っ」
「一緒にいるからね、怖くても、俺が助けてあげるから」
「っ……が、ばったら、」
「?」
「がん、ばったら、」



ずっと、一緒にいられる?

その言葉に、胸が締め付けられる。
反射的に震えてしまうような恐怖を、俺と一緒にいたいがために、耐えようとしてくれる。
俺はそれに、応えなければとも思う。
千夏にとっては心を開いた人だから、というだけかもしれない。
けれど、俺にとってはたった一人の、愛情を向けた人だから。



「うん。一緒にいる。だから、」
「が、がん、ばる……できる」



意を決したように、千夏が抱き返してきた。
こうして、短いようで長い千夏の移動は、始まった。

病室を出てエレベーターを降りて、一気に一階へ。
来客で溢れかえるエントランスを抜けるのが、一番の難関だ。



「ひっ……」



エレベーターを降りて、千夏が息を飲んだのがわかった。
俺の背中に隠れるようにして、手をぎゅうっと握りしめてくる。
免疫力が弱く、すぐに風邪にかかってしまう千夏は、マスク姿。
唯一見える大きな目が、戸惑いに揺れていた。



「あそこのドア、見える?そこまで行ったら、もうお家に着くからね」



エントランスを抜けた反対側、関係者入口となっているそこは、自宅に続く道。
ぎゅ、と手を握りしめる千夏を抱き締めてあげたいのは山々だったが、人前では憚られる。
千夏のペースにあわせて、ゆっくりと歩を進めた。



「っ、」



千夏のすぐそばを、小さな子どもが走り抜けた。
それだけで、千夏の足は止まってしまう。



「っは、はあっ、」
「落ちついて、俺はここにいる」



やっぱり車椅子にするべきだったかと、振りかえる。
けれど歩けるなら、千夏自身の足で、歩いてほしかった。



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