3
今だ意識があるのかわからない千夏は、ぼんやりした様子だった。
俺はただベッドに運んで、抱き締めることしかできなかった。
背中を撫でて、頭を撫でて。
思い出したように身体が震えたら、抱く腕の力を強くして。
千夏を守りたいという俺の、反射的なもの。
「千夏」
「………」
「千夏」
「………」
返事をされなくても、何度も呼ぶ。
届くことを、ひたすら祈って。
「千夏、」
「………っ」
両頬を手で包んで、伏せた瞼にキスをした。
少しだけそれは震えて、次に目を開けたときには、しっかりと俺をとらえて。
「ちな、」
「っ……やっ、!」
ぱっ、と耳を塞いだ。
「やっ、やだ、や……見な、で、っ」
意識がはっきりしてきたのだろう。
今までのことを思い出したのだろう。
見ないで、嫌わないで、と千夏は震え出す。
その恐れが、先ほどまでのそれとは違うと、わかってはいるけれど。
「見ない、で……」
過去を、見せたくないと。
千夏は自分を、汚いと信じて止まない。
そんな自分を、誰にも見せたがらない。
「や、やぁ」
「ううん、見せて」
「ひっ……!」
「千夏を全部、見せて」
腕を突っぱねられるけれど、俺は離れたりしない。
見て、知って、思って。
誰よりも千夏の近くに、いたいと願ってしまったから。
「きたな、て、思った」
「思ってないよ」
「ぼく、おかしっ……ずっと、白いへや、白いのが、っ」
「おかしくないよ」
「やだ、見ないで、」
自分への劣等感。
ぽろぽろと、涙を流す。
こんなに、綺麗なのに。
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