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「………千夏、っ」



病室に入ると、ベッドにその姿はなかった。
真っ白な清潔感溢れる部屋、そこに紛れるように、千夏の細い身体がある。
床に、倒れ込んでいて。



「ちなっ……」



近寄ると、倒れていたわけではないことがわかった。

足を揃えて、手首を重ね合わせて。
蹲るように、身体を縮こませて。
かりかり、音がする。
手首を引っ掻く、小さな音。



「千夏、やめて」
「………」



身体を起こして、抱き締めた。
千夏はぼんやりしたままだった。
暴れるとは違う、けれどなにか狂気を感じる。
何も映さない、目。
何を考えているのだろう。



「………ご、」
「ん?」
「ご、しゅじ、さま」



虚ろな目。
静かに流れる涙。

知ってる。
千夏がどんな生活をしてきたかなんて。
自由を奪われた生き方をしてきたことも。



「おね、が、します」
「………っ」



唇を、咄嗟にふさいだ。
キスなんていう、そんな甘いものじゃなかった。

その続きを、聞きたくなかった。



(ころし、て)



きっと千夏は、そう言うから。



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