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side.千夏
僕は、白しか知らなかった。
白いへやに、いた。
冷たい床に寝ころんで、ちいさな窓を、見上げていた。
白いへやのなかで、窓のそとだけ、色があった。
あお、あか、くろ。
ずっと、眺めていた。
長い間、寝ころんですごした。
足は、重いからうごかすのがいや。
うでも、同じ。
じゃらじゃらなる音が、うるさいから。
ごはんのときだけ、僕は起き上がらされる。
窓のそとが黒になると、ドアが開く。
スープが置かれて、また一人になる。
いぬみたいに、食べる。
僕に自由はないから。
手をうごかすのでさえ、許されない。
黒の時間いがいでドアが開くのは、ちがうおうちに行かなきゃいけないとき。
うでと足のじゃらじゃらが外されて、僕は待つ。
でもそこに、自由はない。
待っているのは、地獄。
白いへや。
寝ころんで、耳をゆかにつける。
目の前にある、みにくい、手首。
触れるとそこは、とくとく、音がする。
はやく、止まればいい。
五月蝿い。
傷つけても、止まらない。
僕には自由がないから。
死ぬことさえも、許されない。
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