5
「あー…っ……」
千夏が空に、手を伸ばした。
遥か先にある星には、届かない。
「き、れい」
「ん」
「そら、」
それ以上の言葉を、千夏は、きっと知らない。
「泣か、な、で……」
「え?」
気付いたら、千夏が泣きそうな顔でこっちを見ていた。
「え、あれ」
「泣かないで、」
「なんで俺」
「だめ、泣かな、でっ……」
なんで俺、泣いてんだ。
千夏は両手が埋まっていて―――涙が伝う俺の頬に、唇を寄せた。
「ちょ、」
「泣かないで、っ……」
ちゅ、ちゅ、と涙を拭うように頬にキスされる。
それはきっと千夏にとっては、キスという意味合いじゃなかったのだろうけど。
(……そっか、)
千夏が、あまりに、きれいで。
こころが、きれいで。
なんだか泣いてしまって。
なんて優しいこだろう、と。
頬の温もりを噛みしめながら、目を瞑った。
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